30 川柳千句 家守選

    ブライス川柳について

 「ブライス川柳」というのは私の造語です。R.H.ブライスは川柳英訳と膨大な研究をしましたが、新しい文芸のジャンルを提唱したわけではありません。

 「ブライス禅」というのの存在は鈴木大拙荒井良雄、上田邦義によって確認されています。

 ブライス川柳というのは、ブライス禅の川柳です。それは、自然詠の俳句と対をな人間賛歌の短詩です。俳句は自然を映し、ブライス川柳は人間を映す。

 川柳は型にはまって、卑屈なものが多い。しかし、川柳の中にもブライス川柳として良いものがあります。

 家守選の川柳千句はその試みです。

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     昭和川柳史  

五・一五事件へ女房説を立て    塚越迷亭
ヒットラーあすを背負って立っている  光庵
戦争へありとあらゆる人動く    小田夢路
挙手にこやかに戦闘帽の女子学徒  小田夢路
送別会もう兵隊の声となり       春洋
入営の日から除隊の日を数え     一文字
アナウンス声が震えてマニラ陥つ    大助
米英を撃つ男装の宝塚       高山武士

廃兵・傷痍軍人
空っぽの袖よその子がまたのぞき  東野大八
鬼にして傷士のガーゼ詰換える(中支) 照子


     特攻出撃


雨降って今日一日を生きのびる 
特攻隊神よ神よとおだてられ
特攻へ新聞記者の美辞麗句
七洋に桜花飛込む水の音
(桜花:特攻機の機種)
合作川柳百首 及川肇 遠山善雄 福地貴 伊熊次郎



  21世紀 投資川柳  家守選


教えてよ 上がる銘柄 君の名は 

         かるぼ

  イギリスが
     もおイイYouと 
       これじゃだメイ  
              いっしき


惚れ込んで 奈落に落ちこむ 恋と株  
           akikan20


株投資 嫁選びほど リスクなし  
           FXマン


授業料 言い聞かすには 多すぎる  
             gwdds380


下手すぎて ワクチン欲しい投資熱 

空気さえ 読めぬ夫が 相場読む   
              さくらん

円高で 外貨ほしいが 縁(円)がない 
            1円王子

ごみ株に 夢をたくして 全財産    

買えば下げ 売れば上がるの 何でなの 

              Poco


神様に なれば今頃 大富豪      

              Rsun


     家守選 秀句

それからの日記真っ白恋終わる   中川みさを
世界一怖い乗り物体重計      花野ひかり
夢に見た王子は中古車乗ってきた    円亜純
なんでなの彼氏できたらモテ始め   水戸ふみ
アイドルにみんな死なれたおばあちゃん つねこ
いい男だから奥さんいるけどね    ゆきんこ
嫁いだが実家の墓に入りたい       チコ
店員のすすめる服で我が身知る     花愛子
あきらめを教えてくれた息子たち  加賀千代婆
子供用車椅子その小ささよ       金平糖
亡き母の工夫が残る台所       加藤庸子
実家って代が替われば他人の家    生憎の雨

  女子会川柳


入社時は 腰掛け今は 命がけ
居るのなら とってください その電話
5時までは 体の調子 いまひとつ
「調子どう?」 あんたが聞くまで 絶好調
ストレスは 仕事じゃないの あなたなの

10年目 部長が席まで 来てくれる
「俺がやる!」 その後始末 誰がやる?
誘われた 行くのはいやだ でもタダだ
お土産を 日頃のお詫びと 受け取られ
        「女子会川柳」 サンケイリビング新聞社 より引用

  研究者川柳


真っ白い 白衣の意味は まだ新人 
          hedgehoge
月日過ぎ 望みを希釈した希望
          でるまと
私より 食費が贅沢 ips
                          Yanagi
失敗は 試薬の値段で 叱られる
          湯本タマ

審議待ち 根回ししとけよ バカ教授
衛生所 浅田の遺体も解剖し (福島)
      2句 泉康雄の研究者川柳
科研費が 書けん日など こぼす秋
      「川柳 in the ラボ」

  介護女子会

寝たきりも 疲れるでしょう おとうさん
            さくら
徘徊の 父を追いかけ 秋を知る
             柴山
果てしない 円周率や 介護する
筋トレ後 整形外科とは なさけなや
         熊倉正宏
バレリーナ 見ているだけで 足がつり
         植田茂子
夢ん中 ドクターヘリで 天国へ
         佐藤孝子


 ホームレス 句会


クリスマス
水道水で
乾杯だ    沢野健草 

寝袋に 
花びらひとつ 
春の使者    沢野健草 

悪いなあ 
仲間で占領 
木のベンチ   沢野健草 

ホームレス 
長すぎたのか 
ホープレス   山本一郎 

服支給  
バーゲンみたいな 
争奪戦      村中小僧 

一着の 
防寒服が 
宝物       村中小僧 

ホームレス 
なって倍増 
お友達      髭戸 太 

百円で 
飲めるチューハイ 
届かぬ手     髭戸 太 

友はある 
つまみと酒が 
あったらなー   髭戸 太 

ホームレス支援雑誌「ビックイシュー」より引用 

解釈と鑑賞 そして弁明   家守 

ブライス川柳はクリスチャン川柳でもあります。 
釜ヶ崎の本田哲郎神父によれば「小さくされた者の側に立つ神 ・・!  
サービスを受けねばならない側に、主はおられる。」 
本田神父訳の聖書によれば、「イエスはまわりの人々から 食い意地のはった酒飲み と呼ばれていた。ファーゴス、オイノポテース。"ファーゴス"とは"いつも腹をすかせ何かしら食べ物を見つけるとつい手がでてしまう人" オイノスとはブドウ酒。ポテースとは「飲む人」威勢のいい大酒ではなく、みじめでなさけない語感の言葉です。 
ホームレスの人々は川柳から察すると、ファーゴス・オイノポテース。 

  

   朝日新聞 川柳


新任地 まず確かめる夜の地図
        よしひさ 
点滴の最中に読む一行詩 
         幸風 

   中日新聞 あすなろ川柳


やきいもでふゆのさむさをふきとばす 
         石原彩 
寒い冬 かぜなんかにはまけないぞ 
         市川愛萌 

   よみうり時事川柳 


反EUドーバー海峡冬景色 
      田原痩馬 
面白く段々怖いトランプ氏 
      高橋敬三 

   JCP 赤旗 

国防軍 
  おっと誤植だ 
    「国亡軍」 
   ポーケン師匠 

参院選 棄権するのは危険です 
      彩山蔵人 
         

29 八百津 しおなみ荘 川柳会

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しおなみ荘

 猪鍋 秋の松茸 春の山菜天麩羅 
 喫茶部はきめの細かい焼立てパン

 

逸猿害 キュウイが安い 山の市
           潮笑
パリよりも パンの美味しい しおなみ荘
             八翁
宴の席 潮見銀座の 奥座敷
               密議丸

28 R.H.ブライスの芸術論

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このブライス長屋の住人の短詩は生活をうたっている。

R.H.ブライスいわく「詩は毎日の生活である」

反対に アリストテレスは「詩人には偉大な主題が必要である」という。シェイクスピアの詩にうたわれているのは、リア王ハムレット王子、オセロ将軍。

ワーズワースの意見はブライスに近く、

『リリカルなバラード』序文で「これらの詩篇で扱われる主な対象は、ごく平凡な生活から選んだ場面や状況である。それらを叙述したり、描写するにあたっては、可能な限り、人々によって使われている言語を用いることにした。と同時に、それらの上にある想像の色づけを施すことによって、あたりまえの事柄を特殊な視点から提供しようというのである。さらにそしてなかんずく、これらの事件や状況の中にあるわれわれの性質の主な法則をこれみよがしにではなく、忠実に追跡することによってこれらの事件や状況を興味あるものたらしめることなのである。」

 そのようなワーズワースの詩句としては・・

 彼女は死んだ、そして私にこのヒースの茂った荒野、この静かな落ちついた光景を残した。

 ありし日の思い出、

 そして二度と再びめぐってこないであろう。

 

 今日、友人の老画伯からメールがあり、「近年亡くなった妻の知人と、かつて一緒に行った所を旅行する(日が君の日本画展覧会と重なる・・)」とのこと。ワーズワースの詩と同じ趣向と思われます。

 

 ブライスは毎日の生活の詩として陶淵明の詩を紹介する。

 読山海経

 孟夏草木長 初夏のころ 草は繁り 植物はどんどん育つ

 家のまわりの木は青葉がいっぱい

 鳥たちは巣の中ではしゃぎ 私も家をこよなく愛す

 土地を耕し 種をまいた。今やっと家に座り、書物を読む時間ができた

 

 ブライス長屋の「めざせ明るい農村」さんも 栄の丸善へよく行って本を買ってるね。

ブライスの議論はさらに続くけど、上記引用の主著『禅と英文学』は翻訳がないので・・・。陶淵明は漢文、ダンテはイタリア語で引用され、禅語も多く訳せる人がいないのです。

 

 家守の意見

 トルストイの『復活』のファーストシーンは、名もない貧しい老人の葬式だったかな。「偉大なる魂の活動がひとつ失われた」。トルストイによれば普通の人の生活にも深い芸術性あり。ラシーヌ悲劇の描く 王女が赤ちゃんを失った嘆きは、普通の子を失った母と同一。ハムレットの快活さ、幡随長兵衛の心意気、私の中にも、あなたの心にもあり。

 

27 R.H.Blyth Oriental Humour

ブライス研究 速報

新着の小川図書「英語・英文学 洋書目録」第84号 

2018年6月

神田神保町2−7 (北原書店隣)

 

2144 レジナルド H ブライス 「英訳 川柳」 ¥19,440

2145 同上 ¥ 21,600

2146  レジナルド H ブライス 「オリエンタル・ヒューマー」¥ 8,640

 

10年ほど前は ブライスの川柳本 神田古本屋街でも皆無。北原書店のオヤジさんが「ブライスの川柳の本? 出たら30万円」と言っていました。ブライスの次女の方の逝去で大磯ブライス邸蔵書整理。その頃から入手可能となりました。高価な方は吉田茂が出版費を密かに援助した と言われる豪華本(←当時の日本としては)で図版が多いです。大学の図書館にあるブライス本の多くは図版を抜き 活字ぎっしりのペーパーバック版。川柳の世界をゆっくり楽しむには豪華版がオススメです。

 

 

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Oriental Humour  by R.H.Blyth

Yanagidaru Book 1

すてる芸 はじめる芸にうらやまれ

The thrower-away of an accomplishment

  Is envied.

By the beginner of an accomplishment.

 

人の物ただ遣るにさへ上手下手

Even in just giving things to people,

  There's a clever way,

And a clumsy way of doing it.

 

大勢の火鉢をくぐる禿の手

The hand of kamuro

 Makes its way through many 

At the brazier.

 

Many people were sitting around a big brazier at the Yoshiwara, talking and laughing. As there so many hands over the fire, it seemed there was no more space for any hand. But the little kamuro ran to the brazier and her little hand got so skilfully through the other hands, and warmed it like the others. Here again we see something of charm, that is, of value in odious surroundings and the person of a budding prostitute.

 

25 古川柳 家守選

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 うそが嫌いて顔かさひしい

   『武玉川』から

昨今の国会証言 うそがはびこり、庶民の顔が寂しくなってきました。

 

 新らし過ぎて凄い売家

 

ドラマを感じます。60年前、大須小学校の筋向い角の家の二階で殺人事件。新築の家だった。

 

 碁敵ハ憎さもにくしなつかしさ

 

老母の行くデイサービスは天白区最大手。レク不参加者用休息ベッド3台、フィットネス器具、ビールも準備されている。麻雀台が2台。1台でゲーム進行、見てる人(順番待ち?)も。麻雀をやっている老人が楽しそう。私の経験では囲碁将棋は実力差で交遊としては成り立ちにくい。若き日に就職して働いた北海道の牧場、夜の将棋、麻雀は勝ち続けてしまった。昼の仕事ぶりはサイテー、夜は無敵。はずかしかった。5年前に介護ボランティア。将棋が強いという老人のお相手。うーん、弱いね。角2枚の防御 王が逃げ回ってあげた。楽しんでもらえましたか?というと、私が強いみたいですが、定石を覚えないから超弱いのです。岡崎高校の友人、都築君、自宅に行ったら洒落たパンが用意されており、最初は勝たせてもらえた。2番目からぼろ負け。その時は気分悪かった。二度と都築君とは将棋はやっておりません。しかし、なつかしいな。

 

 

24 ブライス NHK 2018年のラジオ放送 

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2018年3月18日 NHKラジオ第二放送 午前6:45〜7:25  

講師 斎藤兆史 東京大学大学院教授 専攻 英語文体論 

「見つめ合う英文学と日本」 

NHK こころをよむ シリーズ 見つめ合う英文学と日本 

 1月7日〜3月25日 全12回

第11回 西洋文学のなかに禅を読んだイギリス人 R.H.ブライス『禅と英文学』

    概要

(1)ブライスは知られていない

   ・・・ジェームス・カーカップ説「とても慎み深く、控えめな人」だから 

(2)禅や俳句の研究 日本を心から愛し、日本に定住し、骨を埋めた。吉村郁久代説

(3)生涯 兵役拒否 ブライスはあまり話さなかった / 天皇人間宣言 英文の隠し味は『天路歴程』との斎藤説 興味深し 

(4)『禅と英文学』超絶した難解さ 全体が禅問答 特に引用の理解は困難。

   斎藤要約「禅も人間の生にかかわるかぎり 英文学にもみられる。」

(5)ブライスの禅は鈴木大拙の禅の定義に忠実

(6)ブライスは戦後の日本人に失望。dignity 人格、尊厳を失った。

 

「日本人が失ったものを指し示しているのがブライス。」斎藤説の川田要約。

 

  補説

 

(1)知られていないことこそ ブライスが真の禅の行者であった証。

(2)晩年のブライスは日本の禅に 印刷物においても公然と  No, thank you.と言っている。そして 俳句から川柳へ関心が移っていた。見舞いに来た鈴木大拙に、病床で「ハワイに移住したい」と語った。大拙は「とにかく病気を治してから」と答えた。同じく見舞いに来た平城時代以来の友人、ブライスを日本に招致した平川氏に、右肩下がりのグラフの線を描いてみせ、グラフはやや安静から急降下、もうだめだ、の認識と読み取れたという。資質がブライスに似ていた(学習院大学の同僚 荒井良雄氏の指摘)長女の春海さんは大学でウクレレを演奏、現在カリフォルニア在住。川田説としては、日本に骨を埋めたのは、ブライスとしては不本意、子供は親の願望の実現者、としたい。斎藤講師はブライスの章 参考文献が吉村系の3冊のみ。ブライス研究は荒井良雄系と上田邦義系もあり 勉強不足。上田系 杉原京子氏のブライス本(岩波から出版)にJapanese Zen, No, thank you.論 詳しい記述あり。禅の精神を誇る将校が戦場での虐殺を能率良くやる話とか・・。私としては 禅と俳句の戦後的ブライス的毀誉褒貶よりも 川柳をブライスの示した方向性でやる という選択です。

 ブライスの考えに価値あり。その到達点は 俳句と日本的禅ではなく 川柳 それも通俗的な川柳ではなく ブライス禅の川柳。

(3)天皇人間宣言の日英文章構造解明は斎藤講師の白眉の業績。

人間宣言「思うに長きにわたれる戦争の 敗北に終わりたる結果、わが国民はややもすれば焦燥に流れ、失意の淵に沈淪せんとするの傾きあり」

英文 We feel deeply concerned to note that consequent upon the protracted war ending in our defeat, our people are liable to grow restless and fall into the Slough of Despond. 

英文川田訳 私はとても心配である。長びいた、敗北に終わった戦争の結果、国民は焦燥にかられ (バニヤン著「天路歴程」の主人公クリスチャンの落ちた)「失意の沼」に沈むことが心配である。

 「天路歴程」ではヘルプなる人物がヘルプを沼から助け出し、その後の様々な苦難を乗り越え天の都にたどり着く。沼 the Sloug of Despond は地名扱い。

 アメリカの新聞の読者は天皇人間宣言を読み「天路歴程」を想起し、天皇と国民が手を携えて敗戦の苦難を乗り越える姿を連想。天皇はヘルプ氏役と読める。

 英文 斎藤解説   we 君主のwe

               the Slough of Despond  アメリカ人なら周知の物語に出てくる地名 かちかち山的地名 失意の沼

(4)ブライスの引用 ゲーテは独文 セルバンテススペイン語 漢文の仏典など

 上記の「天路歴程」の引用の如く 自由自在。疑いたくなるが、終戦直後の被災地を歴訪、日本各地で大歓迎を受けながら国民を激励、復興のシンボルを演ずる昭和天皇を想起するなら、「歴程」ヘルプ役の天皇、は日本的発想ではなくアメリカン発想。

 引用というより禅僧の示す公案

(5)斎藤講師の「ブライスの禅は 鈴木大拙が英文で定義した禅。」は的確な指摘。ブライスはそれによって自由自在に禅を論ずる 。唐代の禅認識か。我々日本人はいろんな禅に出会い、その通俗化した意味合いで受け取っているので、ブライスの明快な禅議論に瞠目してしまう。

(6)戦後のブライスは 禅と俳句 ではなく 川柳を研究。ブライスの川柳本は初版は豪華。当時の日本の出版物と雰囲気が違う。吉田茂首相が出版を秘かに援助していたという説あり。ブライスは有名ではないが、昭和天皇、平成天皇、吉田首相は重要視していた。皇室主催の晩餐会では菜食主義のブライスのための特別メニュー用意。皇后が「菜食で大丈夫ですか?」と聞くと、ブライスは「象も菜食ですよ」と言って、一同大笑い。ブライズで著書のある上田邦義教授が受勲し園遊会に呼ばれた時、平成天皇ブライスの話で盛り上がり、長時間にわたったという。

 

最後に 斎藤講師は「ブライスは戦後の日本人が失ったものを指摘」と語ったが、私はそれでもなお残る日本人のすばらしさこそ ブライス川柳の世界 と言いたい。